2012年11月4日日曜日

堺市の高校教師の取り組み

 ここ2日ばかり激しい風や断続的に降り続く雨にやられて、結構しんどい思いをし、今日は疲れた体を休めた状態ですが、それは北海道大学で行われている長期のイベント、『サステナビリティ・ウィーク』に参加の際、その帰りに諸に雨、風にやられたせいでもありました。

 しかし、人文社会学に関心がある私にとって「生きづらさを超えて」をテーマに行われた講演とシンポジウムは有意義でした。
 初日は「優しさのゆくえ」などを書かれた栗原彬先生の講演。昨日の土曜日は午前の仕事ののち、「学校と仕事が出会うとき」というテーマで、堺市の高校での現代社会授業の取り組み、そしてデンマークの職業訓練と人格教育を兼ねたと思われる「生産学校」の紹介をされた名誉教授(大学は忘れました)の二人の話とその後のシンポジウムに参加。

 個人的な関心に即して言えば、堺市の教育困難校で長く現代社会を教えられた教師、井沼先生の話が響きました。教育困難の理由としては、複雑な家庭環境や、厳しい経済状態が背景にあり、生徒の約8割はバイトをしています。そして残念ながら、退学率も高い高校です。

 井沼先生によれば、「言葉が通じない」くらいの生徒さんとの出会いが年々増えてかなりカルチャーショックを受けるようですが、複雑な家庭事情を抱えている子女が多く、必要性があってアルバイトをしている生徒さんが多い。そのアルバイトでは最低賃金以下、あるいは労働基準法を守らない使用者に安価に使用される労働力として生徒さんが使われているとの話。
 それで、井沼先生は抽象的な現代社会の勉強をするのではなく、彼らの実際の日々の生活に即したーすなわち、バイト込みの生活ーで使用者に利用されないよう、まずは「雇用契約書」をもらおう、そしてその体験を元にレポートを書き、事例を元にグループワークを行う取り組みをします。

 この取り組みの話は非常に面白く、雇用契約書をもらって、労働基準法を超えて働かされている事例、そもそも”雇用契約書?WHAT?”な使用者もあり。そこで気づきを得た生徒たちは「ムカついたり」「イライラさせられたり」しながらも、学校で自分たちが置かれた労働環境をフィードバックしながら、職場に再度新しいアプローチをします。
 なかには「使用者は毎日残業残業で、あるいは家庭にいざこざがあって」諸々の事情で社長や店長も大変なんだ、と呑み込んだり、あるいはパートのおばさんと話しながら上手く売り場主任会議から、店長会議に持ち込んで、ついに最低賃金を確保するという、職場民主化の手がかりの導き手になる子がいたり。

 この実践はある種感動的で、中には労働法にある程度精通していく生徒の中には「店長インタビュー」を行って、どこに会社の経費が使われているのか理解を深める生徒もいるのです。そのレポートなども感動的です。

 最初はバイトをやっても、待遇が悪いとどこかで感じても表現の方法が分からなかった高校生たちが、労働基準法や労働契約法を学ぶことを通して働く者の権利が守られていることを知る。そして、知った以上、何らかのアプローチをせざるを得ない。個々のレポートを見ると、その若者たちの瑞々しい現実との向き合い方にグッとくるものがあります。中にはこの取り組みに会社の人が感心し、法を守ることが会社のイメージアップにもつながるんだなあと気づくケースもあるようです。

 授業最後の自分のバイト先の店長などへのインタビューで過労、労働法違反の長時間労働、忙しくてまともな食生活も取れない実態を知り、ムカつく自分たちの扱いをする大人も大変だなあと気づいてもいくわけです。そうすると、改善意欲が高い生徒さんだと、そっから先の問題意識はポジティヴでしょうね。

 もうひとつ深く感銘したのは、この現代社会の授業カリキュラムです。バイト先から知る労働法のみならず、「契約って何?悪質商法」「キャッチセールス、ロールプレイ」、「一人暮らしの自立度チェック」「高校生のためのライフプラン入門」「賃金、女性と労働、解雇予告」、「社会保険」「派遣労働」「カード社会の落とし穴」「ローン計算」「最後のセーフティネットとしての生活保護」etc・・・。

 まさに、高校を出たあとに社会に直面せざるを得ない生徒さんのためのカリキュラムがぎっしりです。ここまで実際的な社会の勉強であれば、下手な大学生さんなどよりもより実践的な知、生きるための知識が身につくのではないでしょうか。

 280人入学すれば、80人が途中退学するような困難校ゆえにおそらく全ての授業が真剣に学ばれるということはないかと思いますが、不詳、自分なども高校ぐらいでやって欲しい生きていくための落とし穴にはまらない教育があればいいのに、という実践がちゃんとここにはあった、ということがとても嬉しい驚きでした。

 ただ、授業を受け持っていた井沼先生も現在は進学校に移り、移るとそのような学校においては、このようなカリキュラムは立てられないとのこと。
 おそらく大学を意識するとこれらの実践学問は等閑視されるのでしょうが、現代社会の厳しさを考えると学校が本来伝えるべき知識の転倒を感じざるを得ないですね。

※この文章は自分の社会保険労務士事務所ホームページのブログから転載しました。

2012年11月1日木曜日

味わい

 毎朝、自転車でJR札幌駅近くの屋根付き駐輪場に自転車を入れてアルバイト先に向かいます。駐輪場を借り始めた時以来、早朝早番で出勤される60代半ばくらいの人柄の良さそうなおじさんがいつも「おはようございます」「行ってらっしゃい」。帰るときには「気をつけてお帰りください」と。
声がけをしてくれて送り出してくれます。
 この6月に駐輪場を借りるようになって以来、早い段階から自然に親しみが湧いて、時折雑談したり、挨拶を交わしたりしていましたが、今日は割とじっくりと帰り際に話ができました。

 このところ朝、いつも駐輪場の中にいたおじさんは最近は見かけなっていました。寒くもなってきたので、早朝は入口の所にある管理室(高速インターチェンジのお金を授受する場所くらいのスペース)の中にいるんだろうなと思っていたのですが。
 本日は向こうの方から「久しぶりですね。朝なかなか会えないのは上(二階)や、他のことを先にやってしまいたいものでねえ」との話。僕が「いえいえ。もうこれから寒くなってきますしね。管理室の中にいらっしゃるかと思ってましたよ」と水を向けると、おじさんは「いやあ、それはねえ。お客さんが寒い中自転車で来られるわけでしょ?そんな様子を見てると、中に入っているという気になかなか、なれないんだねえ」と仰る。ほお~と感心して、「〇〇さん、失礼ですがシルバー人材センターから派遣されてきたのですか?」と尋ねたところ、「いえいえ」と。僕が「いやぁ、実はもしかしてサービス関係のお仕事をされて来た人かな?と思ってて。そんな感じがしますけど」と言うと、「うん。この駅のそばのビルの二階で理髪屋やってたの。いま〇〇(某焼鳥チェーン)がはいってるビルの2階でね」「ああ、なるほど~」。

 どうりでね、と思いました。前々からこのおじさんの親しみやすさや礼儀の良さには感心していたのですが、この屋根付き駐輪スペースの場所からほど近いところでずっと理髪屋さんをやってたんだ。「いま、引越ししてね。中央区の電車通りの方に移ったんだけど、向こうは道も狭いし、迷子になるよ。前はここのそばにね。住んでたの」「あぁ、それは近くていいですね。全く圏内じゃないですか。それじゃ、この風景がずっと馴染みですね」「そうね。もう50年近く、こちらでね」と。くふふ、と笑われる。

 いいなあ。いい味だ。そう、昔は理髪屋さんがそこかしこにあったんだよなぁ。職住一致だったりもして。もちろん駅の中心部なので、床屋さんが実家じゃないけど、長く職場のすぐそばに住んで、今も中央区のすぐそばが職場なんだ。いいなぁ。「お客さんが寒いと思うと、座ってられなくてね」、という言葉も理髪の仕事をやってた時代の習慣というか、気分が続いているんだろうなぁ。
 

 人さまの生きざまだから、簡単に推測してはいけないけれど、何か、自然ないい生き方をしてきてるんだろうな、と思って清々しかったのでした。
 今日はじっくり話が出来たので、表情なり、雰囲気なりも確認できたんだけど、とても自然で温厚そうな雰囲気。僕はこういう人がとてもしっくりくるし、元気をもらえます。

 地下歩行空間でビックイシューを販売しているMさんも、そう。最近はついつい甘えて1時間くらい話し込んでしまうけれど、この方も自分に対してオープンだから、僕みたいなかなりの人見知りも話しやすい。そして何より感心するのは客の流れや、その日々のイベントなどなど、人通りを客筋として見ている観察眼。その商売目線。それが全然嫌味でなく、普通に開放的に話してくれるので、勉強になることが多いのです。この方の表情やルックスもとても味わい深い。

 サービスの勉強を事前に仕込んでコミュニケーション能力を高めてサービス業に従事する。それを誠意あるプロフェッショナルな意識で向き合うならば、どんな若くても中年の方でも僕はとても敬意を感じますが、そういう事前に学ぶ方法じゃなくて、日々の中で培われた自然な気遣いみたいなものを昔の自営の人は持っていたんだと思います。
 そしてそれは「失敗」も含めて世の中全体で守られてるというか、包摂されて成長できてったような気がするんだけど。。。この辺のことは自分自身が未開の領域なので、なかなかうまい言葉が見つからないのだけど、感覚としては何かわかるんです。

 ビックイシュー販売員のMさんも話されたんだけど、買い物って、お客さんと売り子さんの、こういういろんな会話込みのものでしょ?というのは確かに、とうなづける。
 僕はおっさんなんで、いわゆる「〇〇銀座」のようなスーパー以前、つまりどこも商店街で物を買うのが当たり前の時代も知っています。
 子ども心にそれがけっこう嫌で苦手だったりしたので、結局この便利な時代に馴染んで生きてきたんだけど、段々年をとって昔ながらの居心地の良い時間が恋しくなってきたような。
 そんな気がする最近です。(まぁ、若い人相手、特に若い女性相手だと難しいと思いますがw)

PS.
 ケレン味のある文章を書いているうちにもう一つの書きたい情報を抜かしてしまいました。この10月より社会保険労務士事務所を開業。まだ作成したばかりの簡易なものですが、ホームページを開設しました。こちらが半分位、自分にとって肝心だった情報。
 「杉本社会保険労務士事務所」