2018年8月14日火曜日

サブカルチャーを巡るプレイリストと仮想インタビュー。



名前は?: 杉本賢治

肩書きは:アルバイト

出身は?:北海道 札幌市。

あなたのスタイルを三語で:独身者、独学者、インタビューアー

これまでに見た最高のライブは?:素晴らしいライブ体験はいくつかあります。ロックに紐づけられた意味では、初めて観たバンドで、待望されてたゆえに観客の熱狂もすごく、全員合唱の一体化が実現したザ・クラッシュ。一回限りの日本でのライブ。中野サンプラザで82年の2月に見ました。自己記念碑です。

もし歴史上の誰とでも一緒に過ごすとしたら?:聖徳太子かな。実在してたかどうか知りたいし、渡来系の人なのかどうか。太子信仰がありますが、渡来系、土着系の争いの中で存在のベールやオーラがあって気になる。どんな立ち位置にいたのか知りたい。

一般的に脚光を浴びてないヒーロー、ヒロインは?:音楽と関係なく、ヒーローという括りでもないですが、熊本で近世史研究などをされている渡辺京二さん。もっと知られていい本物の思想家だと思います。電子本でしか読めない「維新の夢」という作品を読んでいます。このかたの研究でも大きな柱である北一輝と西郷南洲(隆盛)を中心に取り上げている本です。

今回のプレイリストのコンセプトは?:初めて洋楽に触れたビートルズから思春期に衝撃的な出会いになったパンク。そしてレゲエという流れだと思います。ボーカルはシャウター系が好きなので、ちょっとマッチョな感じかも。基本的にはビートルズの初期から始まり、ビートルズで終わる円環になった気がします。

繰り返し聞いた最初の曲は?:井上陽水の「夢の中へ」。

あなたの十代を定義する曲は?:沢山あるんですが。あえて象徴的に言えばセックス・ピストルズのアルバム。冒頭一曲目の「さらばベルリンの陽」かな?実はそのシングルB面曲である「サテライト」もショッキングな音作りで何度も繰り返し聞いてました。兄貴に「気が狂っている」と言われましたね(苦笑)

永遠に持ち続けたいレコードは?:レコードというマテリアルは希少性がなくなってきてて寂しいところです。ボブ・マーリーのベスト盤か、ジョン・レノンのファーストは持ち続けたい。ジョンのファースト・ソロはロック界の「人間宣言」ですね。ここまで赤裸々なものはない。文学ロックとしてずっと持ち続けたい。

インスピレーションを受けた歌詞は?:ジョン・レノンの「GOD」。幻想打破の曲ながらこれほど切なく美しい曲はない。歌詞と曲のシンクロを成し得た稀有な例のひとつ。あとはピストルズの「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」。ザ・スミスのモリッシーの歌詞の一群。

大声で歌ってしまうベストソングは?:エレカシの「俺たちの明日」。ただし、車の中で、ひとりで(笑)。

意外と好き、という曲は?:エルヴィス・プレスリーの「冷たくしないで」。何年か前によくベスト盤を車で聞いてて、エルヴィスの歌の巧さを再認識しまして。「ハートブレイク・ホテル」や「監獄ロック」のようなロックンロールだけじゃなくて、カンツォーネみたいなものさえうまいなー、と感心しました。

今聴いている新しいバンドは?:苦しい質問。本当に最近のバンドには疎くて。新しいバンドかどうかは知らないけど、groovers という日本のバンドをラジオで聞いてそれは良かった。リズムギターのグルーヴがそれこそいい。ちょっとイギリスの偉大なギタリスト、ウィルコ・ジョンソンを思わせます。




エルビス・プレスリー「冷たくしないで」
いわゆるロカビリーとか、ロックンロールのハードなイメージが強かったデビュー年にこんなお洒落なポップ・ロックンロールを歌えてしまっていたエルビスはやはりただ者ではないです。
ビートルズ 「シー・ラブズ・ユー」
イントロのプリミティブなドラムと、コーラス部からイントロが始まる斬新さ。とんでもないです。この後の「抱きしめたい」もそうですが、60年代初期からめちゃくちゃハイセンスです。メジャーコードとマイナーコードが入り混じる幻惑性と3人絡みのコーラスもすごい。特にこの曲は一緒に歌いたくなります。
ロス・ブラボーズ「ブラック・イズ・ブラック」
ワンヒットワンダーの60年代グループ。ですが、熱い名曲だと思います。昔、FM放送で60年代のポップ特集で聞いてぶっ飛びました。ゾンビーズの「二人のシーズン」とかもそうで。実に60年代の曲は素晴らしいと思った瞬間のパンク・マニア時代。この“黒い”ボーカリストの才能がのちにフェイドアウトしてしまっているのが惜しい。珍しくもイタリアのバンド。
ザ・フー「ババ・オライリー」
シンセが効いたドラマチックな名曲。中間部でギターのピートが歌う「10代は不毛の荒野」という一節が切ない。ザ・フーはギターを叩き壊し、ドラムはセットを投げ飛ばす荒くれ者のイメージが強いのですが、実は60年代というカルチャー大変化の時代。自分たちが巻き起こした若者文化の落とし前をきちんとつけようとするギタリスト、ピート・タウンゼントを擁するバンドで、世代断絶の苦悩を表現するコンセプトアルバムを何枚か作品化している誠実なバンドでもあります。
セックス・ピストルズ「さらば、ベルリンの陽」
曲がまだ東西ドイツが別れたベルリンの壁のある時代に「ベルリンの壁に行く理由がある」と歌い、イントロがナチスを思わせる軍靴の音ですから。物騒極まりない。曲はラストに向かって歌い手は演説のように言いたいことが山ほどあるのだ、というテンションの高さ。ショックでした。
ダムド「ニート、ニート、ニート」
これもアルバム冒頭の一曲目。パンクは激しさや怒りのイメージ以外にもどこか妖しげな闇、デガダンな雰囲気もありました。ダムドの最初のアルバムはそんな雰囲気がある。あとは乱痴気騒ぎ。
ザ・クラッシュ「トミー・ガン」
テロリストを歌った曲。理由が自分にはわからなかったけど、この時代のテロは宗教テロだけじゃなく、むしろ極左思想によるテロリズムが一般的でした。ビートルズの「レボリューション」よりもテロリズムに親和性がある歌詞に思える。クラッシュが政治的に危ないバンドなんじゃないか?と思われた時代の曲です。しかし、ヨーロッパは本当にテロリズムの被害が絶えない。
ボブ・マーリー「ワン・ドロップ」
この曲が入っているアルバム、「サバイバル」は今までのレゲエを超えて、アフリカン・ポップと融合する可能性があったと僕は思う。残念なことに若くして亡くなったボブ・マーリー。生きていたらレゲエの新しい展開がありえた気がしてならない。黒人にレスペクトされている人ですから、ベスト盤が世界でイチバン売れている人です。僕らや白人がマーリーを買っても、黒人がビートルズのベスト盤を買うだろうか?ということですね。
U・ロイ「ナッティ・レベル」
70年代までのレゲエの驚きは「イントロの驚き」にもあります。このガツンとくるイントロ。ボブ・マーリーの曲の上に乗せていわゆるDJが語るスタイル。Uロイのいいところは曲と対話するように、歌うように、DJするところ。
PIL「ライズ」
ジョン・ライドンがピストルズ解散直後に作ったバンドがPIL。この曲が一番ポップなPIL。メチャクチャ馴染み良い。80年代半ば、獄中にいたネルソン・マンデーラについて歌ったメッセージソングだと知ったのはのちのこと。「怒りはエネジー」という一節はそのテーマにおいて。でも当時は歌詞の背景を知らなくて、プロモビデオでヒステリックに顔を引きつらせているジョン・ライドンのアップを見る限り何に苛立っていたのか分からなかった。彼の出自、アイルランド民のオマージュだと思われるプロモビデオでもあります。
ザ・パラゴンズ「オン・ザ・ビーチ」
パンクとレゲエの親和性は非常に高い。特に初期のロンドンパンクを牽引した連中はルーツレゲエと呼ばれる同時代のレゲエをレスペクトしていました。最近ジョン・ライドンが来日、PILのライブに行ったけど、開演前のBGMはパラゴンズのリードシンガー、ジョン・ホルトのベスト盤でした。これはとろけるように美しい曲です。
キング・タビー「Kingston Town DUB」
レゲエにおけるインストゥルメンタル、ダブ(DUB)。それは音を抜き差しして、エコーやデレィをかける前衛的なもの。ダブにはダンスに寄りにリズムを強化するパターンと、曲自体を解体するスリリングさの両面があって、これは後者。ポップでメロウなボーカル曲を解体する大胆さがたまらない。
スティールライ・スパン「A Calling On song
イギリスで、自分たちの伝統的古謡をロック的に再現する動きが60年代後半からありました。そのバンドのオリジナルメンバーによるファーストから。実に美しいコーラス。英国にはとてもとても美しい、女性トラデッショナリストの歌い手たちが沢山おります。
ジョン・レノン「労働者階級の英雄」
労働者階級がいかに、あらゆる手段で搾取されているか。レノンが素朴に、赤裸々に歌います。
エレファントカシマシ「恋人よ」
今宵の月のようにがラスト曲となる「明日に向かって走れ〜月夜の歌」。アルバムの一つ前の楽曲。僕はアルバムのハイライトはこれだと思っているのですが。宮本本人は当時のインタビューで「まだ文学的な気取りがあるなぁ」と、この曲を例に挙げて言ってたと記憶してます。素晴らしい、これこそエレカシの「らしさ」なのに。その後この曲がライブで演奏されることもほとんどないのでは?隠れた名曲で、素晴らしい歌詞で、宮本の曲の中でも最もエッジが立った歌唱曲のひとつです。
ビートルズ「ゴールデン・スランパー〜キャリー・ザ・ウェイト~ザ・エンド
実質的なラストアルバム、「アビー・ロード」のハイライト。「ゴールデン・スランパー」はポール・マッカートニーのベスト曲の一つだと思うのだけど。組曲形式だから、あまり語られてこなかった気がする。でも最近はライブでこの曲をレパートリーにしているようで、大変評価もいいようで良かったです。