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このたび元ひきこもり経験者としてひきこもりの支援実践を行っている人やひきこもり関連の研究者をされている方々へのインタビューをまとめた書籍『ひきこもる心のケアーひきこもり経験者が聞く10のインタビュー』が世界思想社より出版されました。
私がインタビューアーとなり、10人の先生方の話を編纂しています。丁度一年越しの作業がやっと実を結んだ形となります。実際はインタビュー作業は2011年の秋から始めていたのですが、昨年書籍化のためにインタビューの内容そのものを全く変えて専門領域でお話を伺ったもの、あるいは補充インタビューしたもの、そして新たに道内外の支援実践者3人を加え(うち、参加NPO法人団体の理事長に改まって話を訊いたものを含む)全部で10人。実質、この1年の作業をまとめた本といえましょう。
私自身が読み返して編者自身、おこがましいという気もしますが、率直に「これは面白い」「面白いし、ためになる」と思いながら読み終えました。
10人の先生方のお話が、いわゆる「社会的ひきこもり」に特化したものばかりでないにもかかわらず、その語りが相互に共振している感じがあり、言葉では「○○である」とはうまく言えないのですが、ある種の共通のベクトルが見えてきた気がするのです。その結果、「ひきこもり」をとりまくいままでの言論環境の中にあっても新鮮な、そして新たな「共通認識」を創るものと思われる角度を提起できたのではないかと思われるのです。
ただ一番、おそらくみなさんの共通問題として言えるのは、「過剰な競争社会化」「自己責任論の浸透」「社会の流動化の促進」というあたりのこと。本書でとりあげたひきこもり問題の背景、底流にその語りの中に流れているような気がします。
本は全部で四部構成。第一部は支援実践者の物語り。まさに物語りといってよいような、支援実践に至る過程に支援者自身も若いときにいろいろと深い模索の時期があったことがわかります。序章でわたし自身のひきこもり経験を詳細に、逆インタビューされていますので、できれば昨年出した自費本を読んでくださった方は、今回はできるだけ最初から第一部、第二部という順番で順番に読んでいただければ、と思う作りです。そのように新鮮なひきこもりをめぐるストーリーがイントロダクションとして色鮮やかに、この本の全体像へとつなぐ流れを構成しています。
その形で第二部は「ひきこもりと心理学」、第三部は「ひきこもりと発達障害の関係」、第四部は「社会的排除としてのひきこもり」といった流れで終章で本書の監修者と私でインタビューを終えた後の感想対談をする、という作りです。
ひきこもりという現象、この現象の渦中にいる人は全国で70万ほどとも言われているようです。ただ、その態様の幅はわたし自身はわからないところもありますし、実際、何をもって「問題となる」ひきこもりなのか、というのは正直どうなのだろうか?という気がします。「つながりを失っている」「つながる場所が見つからない」という共通項はあるかもしれませんが、私たち生活者と何か確たる断絶があるのだ、とは私は思いません。ただ、本書でも和歌山の紀の川病院というところでひきこもり研究所を開所している宮西照夫先生が語る「ひきこもり臭」がある、という意味での共通項はあるかもしれません。
しかし矛盾するようですが、「ひきこもり」が最近語られなくなってきたのが気になるところです。もっと大きくいえば、社会に伏在する種々の困りや困難への照明が「落ちてきている」ような気がするのです。それは端的に言えば、私が懸念する政治の動きで、どうも人びとが国を創るボトムアップ型社会の構想とは真逆に、「国民から国家へ」のトップダウン型社会になりつつあり、そのため生活の中のさまざまな困難が置き去りにされる可能性を危惧しています。(やや物事を大きく取り上げすぎかもしれませんが)。
いずれにしても、すべてのインタビューが成功したとはいえないかもしれませんが、本書の八割方は非常に面白い、興味深い出来になったと多少の自負があるところです。そして本書をベースにしてインタビューをはじめたならば、そうとうなものが提出できたのでは?とまた、おこがましくも思います。
思い返せば、本の編纂の過程ではいろいろなことがあったな、と思います。それは共同作業を通し、編者、監修者、出版編集者それぞれのリアリティを軸とした立場を交錯しながら、時にこちらが思い込んでいたほどには自分が考えていた「ベース」が理解されているわけではなかったとか、それはお互いにさまざまな思いを共同作業の中で感じたことと思います。
でも、例えば、その私が感じた「さまざまなこと」こそ「社会的生産の合意点つくり」だったわけですし、このような活動は古風にいえば”上部構造的な”作業ですが、でも社会のための「生産活動」でした。つまり初めて社会へと、つまりは世に問う、そして誰かのためになってもらえる希望を託す「インタビュー集」という作品になりました。
ぜひ多くの人に手にとってもらいたい、それが偽らざる心境ですが、読まれて厳しい評価を受けること。これも大事な社会活動です。どうか手にとって下さる方があれば、ご自身の「思い」で、その感性に忠実に、ナチュラルな形で読み進めていただければ幸いです。
以下、内容の目次です。
はじめに
序章 ひきこもりという経験 杉本賢治
第1部 ひきこもり支援の最前線
第一章 自立を強いない支援 塚本明子 (とちぎ若者サポートステーション所長)
第二章 仲間の力を引き出す 宮西照夫 (紀の川病院ひきこもり研究センター長)
第三章 ピア・サポートという方法 田中敦 (NPO法人レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク理事長)
第2部 ひきこもりゆく「心」
第四章 対人恐怖とひきこもり 安岡譽 (北海道精神分析研究会会長)
第五章 自己愛とひきこもり 橋本忠行 (香川大学准教授)
第六章 モノローグからダイアローグへ 村澤和多里 (札幌学院大学准教授)
第3部 発達障害とひきこもり
第七章 オーダー・メイドの支援 二通諭 (札幌学院大学教授)
第八章 自閉症スペクトラムとひきこもり 山本彩 (札幌学院大学准教授、元札幌市自閉症・発達障害支援センター所長)
第4部 社会的排除とひきこもり
第九章 若者が着地しづらい時代の支援 阿部幸弘 (こころのリカバリー総合支援センター所長)
第十章 生活を自分たちで創り出す 宮崎隆志 (北海道大学教授)
終章 ひきこもり問題の臨界点 杉本賢治 × 村澤和多里
おわりに
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