この度、個人出版ですが、『ひきこもりを語る』というインタビュー集を新書にて刊行する運びとなりました。完成は3月14日を予定しています。
このインタビュー集の原点は、おおむね35歳以上のひきこもっている人たち同士をピア・サポートするNPO法人、「レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク」の隔月通信会報誌にあります。通信会報での企画を考えていく中で、「ひきこもりに詳しい有識者に当事者視点からインタビューを行っていくことはできないだろうか?」というアイデアが出た中から始まりました。
インタビューは助成金を戴いて作成した同NPO法人会報誌『ひきこもり』2011年11月号から2013年3月号掲載分まで、7人の先生方にお話を伺いました。実質、11年9月から13年2月にかけて行われたインタビュー7本の原稿であり、この書籍においては基本的に各先生の語られた内容をそのままの形で起こしてあります。そこに幾人かの先生が若干の補足加筆校正を加えて下さり、幾人かの先生は編者の起こした原稿そのままで構わないというかたちで書籍化させていただきました。また、加えて2010年10月に釧路で行った、当時釧路市生活福祉事務所主幹であった櫛部武俊さんの生活保護行政における「釧路モデル」についてのインタビューも加えてあります。
発刊に思い至る理由として、通信会報ではやむを得ず盛り込めなかった多様な論点があり、それが公表されないままに完結するのは余りに惜しいこと。それが平均約二時間の各先生のお話を起こした原稿を幾度となく読み返しながら、全体を通し(ごく小さな枠ですが)、世に問う価値があるという思いが募ったからです。
インタビューアーとのやりとりで臨場感を与え、大事な話をやさしく伝えることができる。論文のように肩肘張らず、さりげなく深い話を伝えることが出来ているのではないか。ならば、理解を得られそうなひきこもりに関心のある人たち、家族の方々、当事者の方々にも本書を通して伝えていきたい。.これが編者の本書刊行の動機です。
インタビューアーとのやりとりで臨場感を与え、大事な話をやさしく伝えることができる。論文のように肩肘張らず、さりげなく深い話を伝えることが出来ているのではないか。ならば、理解を得られそうなひきこもりに関心のある人たち、家族の方々、当事者の方々にも本書を通して伝えていきたい。.これが編者の本書刊行の動機です。
この本は3部8章から成り立っています。第一部は「ひきこもりを語る」第二部は「発達障害を語る」第三部は「社会的排除の観点から」という構成になっています。社会的引きこもり圏の議論。発達障害とひきこもりの関係について。そして現在の社会状況の中で排除型社会が生み出す問題としてのひきこもり。そのような多様な観点から成り立っているのが本書です。
幾人かの先生がインタビューで語ってくれていますが、ひきこもりへ至る原因は実に様ざまです。その様ざまにアプローチする際において、各専門分野の先生方により幅広く、かつ質の高い話を聴くことが出来ているのが本書ではないかと思います。無論、私たちはインタビューアーとしては素人であり、あくまでも元ひきこもり経験者としてのスタンスですから、先生方が持っているポテンシャルを上手くすくい取ることが出来きれていない、鑑識のある人にとっては引き出しに物足らなさを感じる場合もあるかもしれません。そこは是非ご確認いただいて、客観的な評価をいただきたいところです。
編者の問題意識を反映して、援助の方法よりもひきこもりの人と向き合う際の援助者側の持つ姿勢や理念を感受しつつ、主にその観点から話を伺っています。ですから、即効的な話を求める人には余り役に立たないかもしれません。むしろ「ひきこもりという現象が起こること」の”意味”を重視する姿勢が全体を通してあると言えましょう。
インタビューは全面的にNPO法人レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク副理事長の吉川修司氏に同席をいただいて、要所要所で適切、かつ要となる質問をしていただきました。友人でもある彼の同伴が編者である私にとってどれだけ心強いものであったか、筆舌に尽くしがたいものがあります。いわばこれはインタビューで語ってくれた先生を含め、吉川氏も含めたコラボレーションの成果です。そして、場を提供してくれた、レター・ポスト・フレンド相談ネットワークのおかげでもあります。
ひきこもった人たちは葛藤が著しい時期はまず自分自身の混乱から抜け出す必要が確かにありましょう。そして混乱から抜け出したあと、どう社会との接点を持っていくか。この問題が次に巨大な壁として立ちはだかります。多くのひきこもり界隈の議論は就労などの「経済的自立」と絡め、ここが議論の最大のポイントになっていると言えるかと思います。社会的な参画の仕方について。
しかし多くの場合、当事者がその議論の主体にはなってはいません。この点も今後考えていかねばならないポイントでありましょう。支援のある環境においては、支援の枠を継続していく中で支援と非支援の関係性が新たな課題となって浮かび上がっている時代だと思います。また真逆に、現にいま、支援そのものが届かない環境にある地域もあるでしょう。
このように、率直に言えば難題がないとは言えなくて、当事者自身がいま、議論の主体になるのもまた、なかなかハードルが高いと言えましょう。最大限、理想的かつ夢想的な可能性は、自分の言葉を持ち、表現を持ち、社会の中で敢然と声をあげる自分自身になってしまうことなのですが、それはおそらくあまり現実的ではないし、夢想的な話にも思えます。(自分自身省みて、まさにそうですから)。
つまり、今の自分が出来る代替案はこのインタビュー集のような方法でしかなかった、とも言えます。個人としての引き出しの限界ではありますが、成し遂げたいことでした。
インタビューをさせていただいた方の何人か方々とは今でも緩やかに接点があります。それはこのような小活動をしたことの最大メリットでした。ですが、いわゆるひきこもりのゴールとか出口は先に述べたようにそう簡単に見えてくることではありません。就労期を大きく過ぎた多くの当事者や親御さんたちが厳しい未来を予測せざるを得ないように、確かに年を重ねれば一層大変になっていくのも事実ではあります。しかし、インタビューを続けていく中でどうしても考えてしまうのはこの社会の経済状況も含めた閉塞性であり、それは自らの過去の後悔なりに拘泥する領域を超えた部分であって、逆に考えると「新たな生活の方法」をひきこもり当事者が先頭を切って調べていく選択肢や、前向きな勉強への契機たる役割があるのではないかとも思えてくるわけです。
全ての人々が、とは言いませんが、多くの人たちが人生で悪戦苦闘を強いられる現状です。そのような社会で苦闘する中で、少なからず人をいじめてはじき出す人もいれば、もろく崩れてはじかれていく人もいるわけです。メディアを通して語られる不穏な言葉や動きとはまた別に、日々、人と人との関係がもつれたり、そのもつれを再構築するために頑張る人がいたり、あるいはそういう微細な援助の眼前に立ちはだかる大きな壁の前でくじけそうになる誠実な人たちがいるのだろうと思われます。そのような人たちの「こころの汗」は目に見えないところで続いています。世の中に「見えていかない」、可視化されない苦労とともに歩みつつ。。。
インタビューに参加してくれた方々は、こころの最深部から考える精神分析理論ベースから、社会と心理のつなぎ目で考える研究者の方。心理テストを元にカウンセリングを行う新しい実践研究者。発達障害の特別支援教育の先生から、自閉症スペクトラムの臨床と福祉の実践者の方。そして社会的排除の観点からの社会教育的見地の先生から、釧路の先駆的生活保護行政を行ってきた支援と非支援の循環型福祉を考えてきた実践者、と。多彩な顔ぶれの話が聞けたと多少の自負はあります。
インタビューを続けながら、各先生のお話を伺って新たに思うことは、民主主義の成立条件は、もっとも小さな、もっとも目立たない人の苦労の声に耳を傾けられるかどうかにかかっているのだろう、ということでした。そして、最も良質な社会の形はそういうところにあるとも思うのです。「ひきこもりの問題」を考えることは、そのような社会構想ともリンクしているだろうと思われます。おそらくひきこもった経験を持つ私たちが日々自らを問いかけ、試されているように、社会も問われ、試されているのではないでしょうか。
前置きが大変長くなりましたが、本書は新書サイズで348ページ。定価500円で配布致します。200部作成し、現在、献本分を含め、約150部弱の予約があります。残部数を配布させていただきたいと思っていますので、関心のある方はご注目いただければ幸いです。
具体的なご納金の方法は改めて取り急ぎお伝え致します。まずは関心のある方、情報の詳細を知りたい方、予約をご希望の方はメールにてご連絡ください。
以下、インタビューさせていただいた先生方の顔ぶれを紹介します。
第一部 『ひきこもりを語る』
・札幌学院大学大学院 臨床心理学科前教授 安岡 譽
・札幌学院大学 臨床心理学科准教授 村澤 和多里
・札幌学院大学 臨床心理学科准教授 橋本 忠行
・こころのリカバリーセンター所長 阿部幸弘
第二部 『発達障害を語る』
・札幌学院大学 人間科学科准教授 二通 諭
・発達相談室「なっつ」発達支援室「ぽらりす」 相談員 山本 彩
第三部 『社会的排除の観点から』
・北海道大学大学院 教育学研究院 教授 宮崎 隆志
・釧路市生活福祉事務所 前主幹 櫛部 武俊
ご連絡はこちらにて。 メールアドレス:tituart@gmail.com
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